内田真弓のアボリジナル・アート考
第3章オークションにて


2000年9月15日。世界中の人々が、オーストラリアに注目をしました。私はその大陸に8年間住む日本人として、そしてアボリジナルアートに長く携わる人間としてこのシドニーオリンピック開催が今後のオーストラリアにいったいどのような影響を及ぼすのであろうか、また全世界にどのようなアピールを投げかけるのかに非常に興味を抱いており、まずは開会式セレモニーがいったいどんな展開で始まるのかを今か今かとテレビの前で待ちわびているひとりでした。

しかもその日の仕事がこの開会式の為に何といつもより一時間も早く終了し、ギャラリーのスタッフもそのセレモニーを見逃さないために皆一目散に家路へと向かっていたのでした。

さて、今回のシドニー五輪はオーストラリアで開催される2度目のオリンピック大会であるのをご存知でしたか?初回は日本選手団も参加した1956年のメルボルン大会でした。

しかし、その当時のオーストラリアは有色人種の移民を規制する『白豪主義』を主張する国家であったため、アジア人は都市の特定地域のみに中国人が目に付くほどでした。ですからアボリジニは国民としてはもちろんのこと扱われておらず、人口統計にも計上されていなかったのです。

それがこの国家的一大事業である先日のオリンピック開会式でオーストラリアは先住民アボリジニをあそこまで大々的に世界中にアピールし、自らアボリジニ達との『和解』の意を示したのです。これは1956年のメルボルン五輪の時にはとても考える事が出来なかった事です。

オーストラリアの多くの国民達がこれまでの過去をもう一度見つめ直し始めている、いわば大きな変化が起こっているというのを私は現場にいる人間として日々肌で感じています。

これは前号の「DREAM TIMES」でも少し述べたように一年に一度行われるアボリジナルアート・オークションへの出品点数、そしてその競売価格の上昇とそれを扱う新聞・テレビのメディアの関心度からもとてもよく分かります。

今年もメルボルンにおいて6月26日・27日とこれまた前例にない2日間にわたっての総数700点近いアボリジナルアートのオークションが世界一の競売会社と誇る『サザビー』で行われました。今年の注目作品はJOHNNY WARANGKULA TJUPURRULA(ジョニー・ワランクラ・チュプルラ)の1972年に描かれた作品で1971年以降に中央砂漠のドットペインティング(点描画)が世に出てきたことを考えるとこれはかなり初期の作品で、現代の作品のように色鮮やかなデコレーションはされてはいないものの、見るからに細かい技法でJOHNNYのドリーミングに基づいたそれはそれは素晴らしい作品です。

この作品、実は2年前にも一度サザビーでのオークションに登場しており過去のアボリジナルアートの競売価格の記録を塗り替えた$125,000(オーストラリアドル)の高値が付き、翌日の新聞に大きく取り上げられたのを今でもはっきり記憶しています。その同じ作品が2年後のいま、シドニーオリンピックを目前としているなか再び登場。予想価格は前回をはるかに上回った$300,000〜$500,000でした。

この作品を狙っている地元アートディーラー達は何日も前からプレビューに足を運び、こまめにコンディションをチェックしています。もちろん、アメリカ・ヨーロッパからのバイヤー達も狙っています。彼らはオークション当日、電話で参加しました。

買うはずのないこの私も会場の熱気に圧倒されて始終ドキドキしっぱなしです。開場は午後6時だったのですが私は少し早めに到着して一緒に参列する友人を待っていました。会場にはそれぞれワインとシャンペンが用意されていて私は赤ワインを片手に持ちながらもう片手でカタログを抱えて誰か知っている人がいないかなあーーーと辺りをキョロキョロしているとどこからか「Mayumi! How are you?」と立派なスーツを着て笑顔で私を見ているとびきり素敵な紳士が。

一瞬、こんなカッコいい知り合いメルボルンにいたっけな?そんな怪しげな記憶をたどりながらそのトノガタに近づいていくと「あーーん、あなたね!やだ、見違えちゃったわ。まるで違う人だわ。」・・・と彼は、いつもボロボロのT−シャツとスネ毛だらけの足丸出しの短パン姿しか本当に見せたことのないアリススプリングスに住む知人のアートディーラーだったのでした。

そうです。会場にはオーストラリア中の全アボリジナルアートディラー達が皆ここぞとばかりに正装してオークション会場に詰め掛けていたのでした。ちなみにその会場は立ち見が出るほどの満席状態。

さて、そしていよいよ注目のJOHNNYの作品が競売にかけられるときに会場は誰一人声を出す者がおらず、みな息を呑んでシーーーンと静まり返っていました。
はじめはそれぞれ番号の書かれたパネルを軽快に挙げていた数人のディーラーやコレクターたちもいよいよ高額になってくるとその数がひとり、ふたりと減っていきます。

最後はなにやら電話の向こうのアメリカ人と地元ディーラーとの競い合いとなり、結局は$480,000でアメリカ人に軍配が上がりました。競売開始からものの7分間での出来事でした。しかし,競売成立のその瞬間会場中からそれはそれは大拍手が沸き上がりしばらくその拍手は鳴り止まずにその場にいた私も手に汗をかきながら飲みかけの赤ワインを一気に飲み干しました。

そうです。またしてもそのJOHNNYの作品がアボリジナルアート史上最高値を記録したのでした。

この結果からもお分かりのとおり、アボリジナルアートがいよいよ世界のアート界に本格的に仲間入りをしました。もうすでに、エマリー、クリフォード・ポッサム、ロバートーマスたちのようなメジャーなアーティスト達が各国の有名な美術館にも展示されているのですからね。

・・・というわけで今回はタイムりーな話題をと、オリンピックとサザビーオークションの話にふれてみましたが今後ますますダイナミックな動きをするであろうオーストラリア・アボリジナルアートにぜひとも注目をされてみてください。


このアボリジナル・アート考に関するご意見・ご感想をmayumi@netspace.net.auまでお寄せください。

COPY RIGHT: Mayumi Uchida 本文およびイラスト、写真の無断複写掲載禁止