部屋に子供達が遊びに来るようになった。その殆どは女の子で、皆朝が早い。学校の無い日、または時間に2、3人で突然やって来てドアを叩く。この日も彼女達に起こされた。
午後、3人はプールへ行こうと私を誘った。私は取りあえず曖昧に返事をし、彼女達を先に行かせた。
居住区でプールがあるのは非常に珍しく、幸運なことだ。他の地域に比べ子供達が比較的清潔そうなのは、このおかげといえるだろう。
彼女達の待つプールへ行く準備をする。水着ではなく、子供達と一緒に遊ぶ為の格好に着替える。要するに子供達と同じ、Tシャツと半ズボンになっていかなくては。
プールは予想を遥に上回る壮絶なものだった。
これ迄も水を入れ換えた夕方にリーサルと泳いだりしたが、今回は全く違う。まず水の色が白っぽく濁っている。水温が生温かい。菓子の包み紙、芝生、ゴミ屑、と何やら色々と水面に浮いている。つまり、汚い。しかし来てしまったからには、覚悟を決めて入るしかない、しかもTシャツのままで。
子供達の私を呼ぶ声がそこらじゅうから聞こえて来る。まずは幼児用プールで足だけ水に浸けてみる。正直、服のままいきな飛び込むには、ためらいがあったからだ。しかし5分も経たない内に背後から飛び掛かってきた子供達に水の中に倒されて、上から下までずぶ濡れにされてしまった。
特に小さな子には限度というものが無い。5、6人がいっぺんに乗り掛かってきた時には、深さ60Bのプールの底でこのまま永遠に浮き上がれないのでは・・また勢いよくしがみつき、しっかりと首を締めてくるので、こんな風に人は殺される事もあるのかも知れないと本気で思った。
大きい方のプールでは親達を含め子供から大人までが、とにかく騒いでいる。悲鳴をあげている。私に向かって舌を出す少年。別の子は私に中指を立てて見せた。当然私もやり返す。私をプールに呼んだ3人は泳ぎも上手く、潜水や飛び込みを披露してくれる。背中には必ず抱きつく誰かがいる。笑い声と叫び声に包まれてもう泳ぐどころではない。
ビデオ上映会で会ったキャリーの子供達、ケイトとカールもそこに居た。
ケイト(8才)はカール(6才)の姉で、お喋り好き。アランダ語は理解しないが英会話は抜群にできる。英語が彼女の母国語なのだからそれも当然か。
ケイトとカールは、コミュニティ内の小学校には通っていない。カールは一時期通っていたが、現在は二人だけで、個人教師についている。
また、僻地に住む子供達を対象にしたスクール・オブ・ジ・エアー(無線を使って教師、生徒が直接応答しあう教育制度)を利用したりして、とにかくアボリジニの子供達とは別の教育を受けている。
二人の母親は小学校教師だが、サンタテレザの小学校の学力レベルを考えると、自分の子供を通わせるのは不安だという。将来的には都市へ戻り、一般(白人を交えた、もしくは白人中心)の学校へ進ませたいので、ここの学校教育では不十分だと言う。
ケイトもこの日、カール同様他の子供達と共にプールで遊んでいた。
『水着』を着て泳いでいるのは(恐らく持っているのも)この二人だけだ。
「ケイトが泣いてるよ!」
子供達が私に訴える。近寄った時彼女は泣いてはいなかったが、私が肩を抱くと安心したのか急に泣きだしてしまった。何が理由で泣いているのか分らない。
「性的虐待だわ!わーっ!」
子供らしからぬことを言いながら、ケイトは泣き続ける。周りの子供達曰く、男の子達数人が、ケイトを突いたり、叩いたりしていたという。
「私のことが嫌いなのよ!みんな、私を嫌ってるの、知ってるもん!」
と繰り返す彼女に驚いて上手く慰められない。
「それは違うよ、みんなケイトのこと好きだよ、ね?」
と、周囲の子供達に目をやったが、彼らは明らかにそれに答える表情をしていなかったので、私は慌てて取り繕う言葉を探した。
このサンタテレザのアボリジニ社会の中で、白人の子供はケイトとカールのたった二人だ。好意をを抱いている故につい意地悪をしていまうという例では無く、この場合はアボリジニの子供達の中での白人蔑視が働いている。よく取り上げられる差別問題とは全く逆のケースである。
ケイト達親子が、ここに暮らすようになってから5年になるが、ケイトはアボリジニの子供達とは仲良くしていない。幼いカールは時々彼らとも遊んでいるのだが。
1年前迄はもう一組、白人の姉弟が住んでいた。しかしその姉弟が去ってからケイトは普段飼い犬のバスターと行動を共にしている。彼女が他の子供達と一緒に居る姿は見たことが無い。
タイミングよく、ケイトの母キャリーがプールサイドに現れた。ケイトは泣き叫びながら母親のもとへ駆けていく。キャリーは当事者である4人の少年をプールサイドに並ばせ、謝らせた。
今後も繰り返しこの種の問題は起こるだろう。
事の発端が何かははっきりしないが、原因は必ずしも肌の色に留まらず、子供達はもっと屈折した「違い」をお互い感じているのだ。そして結局ケイトを苦しめるのは、母親であるキャリーとその世代が解決出来ない歴史なのではないか、と私は思った。(つづく)
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