リーサルはコミュニティの中にディスコを開く計画をしている。町からDJを呼び、機材も揃えてダンスパーティーを開催しようというのだ。会場は体育館、勿論アルコールは厳禁。開催は今回で3度目になり、その主たる参加者は子供達だが、付添で来る親達にもなかなか人気がある。
私は彼女を手伝って、告知ポスターを貼って回った。
翌朝、いつもの様にショップへ行く。ここにはコミュニティじゅうの賑わいが集まっている。
ファースト・フード売り場で順番待ちをする私の後に顔見知りの女性が居た。その女性は、アートセンターに隣接するラジオ局にDJとして勤めており、地域放送「カーマFM」、そして時間ごとに切り替わるサンタテレザ独自の番組を東アランダ語で放送している。
仕事がらか、彼女の話す英語はきれいで聴き易い。性格は明るくて気さく。何気ない会話を交わしていると突然彼女が、売り場の壁に貼られたポスターを乱暴に剥がし、破り捨ててしまった。それは昨日、リーサルと二人で貼った物だ。彼女の行動に驚いて、私一人大声を上げた。
「ワーッ!どうして!?ディスコが嫌いなの?!」
「ディスコなんて、まっぴら。ダンスで好きなのは、コロボリーだけよ。」
彼女は本気か冗談か、笑いながらその場を去ってしまった。
コロボリーとは、アボリジニ文化の中に古来からある唄と踊りの宴である。彼女が伝統を重んじる人であれば、ディスコに反対する気持ちが分らなくもないが、だからといってポスターを破る必要はないと思う。参加したくなければしなければよいだけの事だ。
とはいえ、どちらが正しいのか、私には答えが出ない。白人のリーサルが、アボリジニ居住区内で、白人スタイルのディスコを開こうとしている。子供達を始め、多くの人が楽しみにしている一方でこれを文化継承の悪影響になると捉える人々も居るのだ。
当日、午後5時から搬入が始まり、準備は着々と進んだ。スモークを焚く装置や様々に色を換える照明も持ち込まれた。リーサルが入口にテーブルと椅子を儲け、子供一人につき2ドル、大人5ドルの入場料をとる。勿論利益は無しで機材の輸送費等にあてられる。
音楽はラジオで人気のダンス音楽が中心。中でも同じオーストラリア土着民であるクリスティーヌ・アニュの曲がかかると、子供達の歓声はさらに大きくなる。
子供達のダンスには目を見張るものがあり、腰を壮烈な速さで振る姿は何処かコロボリーを見ている様でもあり、また彼らが好んで真似するアメリカの黒人ダンサー風でもある。その要素はどちらが強いのかは分らないが、とにかく彼らのリズム感、動きの速さには脱帽。勉強より、ゲームより、ダンスを格好良く踊ることが彼らの一番の誇りなのだ。
踊り疲れて長椅子に座ると、隣に居た女性に話しかけられた。
彼女の名前はアマンダ。此処で生まれ学校教育を終えた後、アボリジニの人々を対象とした専門学校『バッチェラーカレッジ』に進んだ。教職課程を専攻、5年間同校で過ごした後サンタテレザに戻り今は教師として働いている。
彼女は私に小学校を訪れるよう勧めた。殆どの子供達は日本について何も知らないので、とても面白い経験になる筈だという。良い機会と思うが、大人達はそれを子供達への悪影響になると感じないだろうか。私はそう心配した。 小学校では、月曜から金曜までのうち3日間を東アランダ語、2日間は英語で授業が行われる。通常の英語教育の他に『東アランダ語のアルファベット表記、読み』、また古来から伝わるドリーミング(精霊)や、伝説、コロボリーまで授業に組み込まれている。
彼女のクラスの生徒数は20人から70人。つまり、子供達には毎日学校へ通うという意識は無いので、基本的に気の向かない日は登校しない。それは、毎日働くという考えを持たない親達の姿勢と同じ。日によって、20人登校してくれば、70人の時もある。一カ月間皆勤した生徒は地域新聞上で表彰されるくらいだ。
夜11時を回ったところでディスコも閉店である。灯が点き、スモークの残る会場を皆笑顔で去って行く。どうやら今回も大成功に終わった様だ。
子供に限らず、大人も私に声をかけてくれる様になった。誰かが私に、東アランダ語で挨拶をしたのが聞こえて振り返る。
「ウォッダ(やあ、調子どう?)!」
それは、ミセス・ウォルシュの夫とその友人達だった。彼とはほんの一度会った事があるだけだが、恐らく夫人から色々話を聞いているのだろう。彼は本当に暖かい笑顔で、私の方を向いて立っていた。私が、
「ウァーラ(まあ、悪くないよ)。」
と答えると、その場に居た者皆がどっと笑った。何故笑われるのか良く分らないままもう一度、
「イグォンタレジナン(また、明日ね)。」
と言うとまた、皆が笑う。
どうやら私の発音には大きな問題があるらしい。ともあれ、彼らが笑顔を見せてくれたのが何より嬉しい。
彼らを知れば知る程、何も特別では無いという事が分ってくる。「違い」は多いとしても、「同じ部分」がこんなに在る事に気付かされる。その度に自分が彼らに、彼らが自分に近付いた気がして感動を憶えるのだ。 (つづく)
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