REPORT FROM THE DESERT

〜アボリジニ居住区での日々〜


瀬川 叔子

第15章 アリスの夜・星空ベッド

 その週末は、格別だった。
 
 アーティストの一人カーラが、彼女の両親の家に泊まらせてくれるという。その家はアリススプリングスの中心から西側へ抜けるララピンタロードをミルナーロードへ左折してすぐにある。庭付きの一軒家、この町の一般的な住宅だ。
 アボリジニの人々には住宅面で特別制度があり、白人の場合よりずっと低家賃で家を借りることができる。これを悪用して書類上のみアボリジニの人物名を使ったり、これ目的でアボリジニ女性と結婚する白人も実は少なくない。
 庭にはユーカリの木、ペットにしているカンガルー、ビニールで作った池。そして中央には堂々たるベッドが4台並んでいる。うち一つはアンティーク調の立派なもの。夜はこのベッドで星を見ながら眠る!

 この家の子供達がベッドに就く頃、私達は『レジェンド』へ行く準備をしていた。ひと月前にオープンした町唯一のディスコだ。ジーンズにスニーカーという出で立ちの私を見て、カーラとその姉アンが言う。
「もっとお洒落しなきゃ中に入れないわよ。」
 アンの娘の服の中から彼女達チョイスの花柄のシャツに着替える。靴はサイズが合わないため、別の家で借りる事になった。
 
 メルボルンで買ったお気に入りのヴァンスのスニーカーから、サンダルに履き替える。連れて来られたのは、ミリーとティナという若い姉妹が住むフラットだ。ミリー19歳、ティナ23歳。
 彼女達も加わり、私をとにかく彼女達好みに変身させるという。色々な香水をやたらと吹きつけ、彼女達流ヘアメイク。
ティナは、
「日本人の髪って、こう、まっすぐなのが羨ましいな。」
と言った。私は逆に、
「私はティナの巻毛が羨ましい!」

リップクリームの後、何故か仕上げに

これまた香りの強い乳液をカーラが顔に塗ってきた。これには皆も、
「なんでそれ塗るの?」と笑った。皆の親切は嬉しいが、私を使って遊んでいる様にも見える。

 取りあえず、完成!私の好みとは程遠いが彼女達は『きれいよ』と満足そう。
 
 ミリー達のフラットは1階がキッチン込みリビングのワンルーム、2階に寝室が二つ。築5年程で白壁がきれい。彼女達も良く掃除をしていて、カーラの妹レイが煙草の吸い殻を床で踏み消すのを見て
「ちょっと!灰皿があるでしょ!」
と怒った。
 階段の踊り場にはトム・クルーズのポスター、二つの寝室それぞれが可愛らしく飾られている。ボーイフレンドや自分の写真、キリスト像の装飾品、大型テレビ、ステレオコンポ、ごく普通の若者の生活が見える。
 姉妹の友人達も遊びに来た。皆明るくてお洒落な少女達だ。町にいるせいか、彼女達の英語はとてもきれいだし、何より笑顔が気持ち良い。

 『レジェンド』の前に大衆酒場『ボジャングルス』へ寄った。
 皆の定番はラム・コーク。私はティナの友人マイとダンスを踊り、リーサルやカーラもダンスフロアに出てきて一緒に踊りだした。
 いつの間にか一人のアボリジニ男性が私達に加わって踊っていて、驚いたことに彼は、ダンスの後私にコーラを一杯奢ってくれた。私の方を見ながら、何も言わずに別のテーブルから渡してきた。私は彼と同席すべきかどうか迷ったが、ティナ達の席を離れられずにいた。

 アボリジニの男性に奢られたのはこれが初めてで、その紳士的な行為に戸惑ってしまった。

 その頃カーラは既に泥酔状態。彼女はこの夜出会ったスコットランド人男性と長いこと話していて、結局二人で何処かへ消えてしまった。
 深夜1時を過ぎ、『ボジャングルス』から、お目当ての『レジェンド』へ。
 リーサル、アン、レイと私の4人だ。アンと私は何故か気が合い、移動中も手を繋いでいた。入口で黒服に止められるかと少しヒヤヒヤしたが、難なく通過して中に入る。
 ここはディスコやクラブというより、ホテルのラウンジの雰囲気。この町周辺に5カ月も暮して、ショッピングセンターで仕事もしていた私なのに、ここの客層は見たことが無い。殆どは観光客だろうか。アボリジニの人は皆無に等しい。弱冠、上流階級らしい人が居る程度だ。
 
 リーサルは後で、アン達があえてこの中に居られたことを「勇敢」だと言った。しかし私はそれ程大袈裟な事ではない気がしている。こういう娯楽場で自然に客の人種が分かれてしまうのはおかしい、納得がいかない。
 選曲が気に入らず入場料分($6)ということで、私達は3曲だけ踊ってボジャングルスへ戻った。カーラ達がしてくれたお粧しは役立ったが、期待外れの『レジェンド』なり。

 その夜、ベッドに入ったのは午前4時。満天の星空の下、心地よい夜風に吹かれながら眠りに堕ちた。
 朝は勿論、ユーカリの葉のすき間から射す光と鳥の声で眼を覚ます。どんなホテルでも味わえない最高の気分。
 日本に帰ってもこうして眠れたら・・と心底思った。

 この4カ月後、ボジャングルスはサンダルでの入場を禁止、盛装でのみ入場と、制限を厳しくした。レジェンドについては、触れるまでもない。ますます白人だけの場になってしまったのだ。
 
 私はボジャングルスでDJとして働く友人に
「アボリジニの町で彼らアボリジニの人達を入れないなんて間違ってる。」
と訴えたが彼は、
「アボリジニ達は泥酔して店内で暴力沙汰を起こすから、制限して当然。」
と言う。
 それでもやはり、納得はいかない。

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