毎火曜の夜、クリスマス礼拝に向けて賛美歌の練習会。教会前の階段には子供から大人まで30人程が集った。定番『きよしこの夜』『諸人こぞりて』などに加え、珍しいのは「イエス誕生の嬉しい知らせにカンガルー、エミュー、ワライカワセミも跳びはねる」と唄う『クリスマス イン ブッシュ』。オーストラリアならではの曲だ。
拍子木を持参した少女が合わせてリズムをとる。流石にダンスで鍛えたそのリズム感は素晴らしい。
7曲程唄ったところで、遠くからサンタテレザボーイズの演奏が聴こえてきた。途端に子供達が立ち上がり、その音の方へ駆けていってしまった。やはりアボリジナルロックとダンスには何もかなわない。
この頃になると、白人達は次々とコミュニティを出て行く。というのも長いホリデーを家族と過ごそうと皆故郷へ帰るのだ。アートセンターも休みに入り、この日リーサルはメルボルンの実家へ発つ。
アーティストやその家族達と私は『クリスマスショッピング』を目的に町へ出た。これは毎年恒例の買物ツアー。希望者が相乗りして町へ行き、間近に迫るクリスマスに備えてそれぞれ家庭で必要な物資を仕入れる。コミュニティショップも夏季休業に入るので、食糧も多めに買わなくてはならない。
日本で言うなら年末、正月用の食糧などを調達にアメ横へ出向くのと似ているだろうか。
町へ続く道は2日前の大雨により荒れていた。中央砂漠地帯はこの時期、極端に大雨が降る。それもほんの数日だけ。
自ら希望して運転を引き受けたはいいが、非道い段差や岩の転がる道は、運転の未熟な私にとって難があり過ぎ。必死になってハンドルを握る私に、助手席のミセス・ウォルシュが運転指導をしてくれる。後部席では私の運転を笑ってはしゃぐ子供達の横で、リーサルが『危険だわ』と顔色を変えている。
勾配を下ったところで大きな水溜まりが突然目の前に広がったが、ギアチェンジも間に合わず私達のトヨタは勢いよく水の中へ突っ込んだ。フロントガラスは赤茶色に濁った水を真っ向からかぶり、白いトヨタは一瞬で色を変えた。乗っている全員が大爆笑、ただしリーサルを除いて。まるでそれは遊園地の乗り物に乗っている様だったので(言わなければいいものを)私は興奮して言った。
「ハハッ!ねぇ、ディズニーランドみたいじゃない!?」
するとリーサル、
「昨日洗車したばっかりだったのに...。ヨシ!もう危いから運転代わらなきゃだめっ!」
怒られてしまった。しかし他の皆はこのハプニングに大喜びでまだ盛り上がっている、特に子供達は。
アリススプリングス空港でリーサルを降ろす。彼女とは新年にメルボルンで再会する約束をした。
アリスの商店街へ到着。私達は3時間後の集合を決めて解散した。
全員が買物を終えて集合場所へ戻って来た。大量に色々と買い込んで、トヨタのドアを閉めるにも一苦労である。
(帰りの運転は諦めて)最後部に納まったのは私とアーティスト、ブレンダの夫。私達はラジコンカーと桃の段ボール箱に挟まれ、足元には冷凍の鳥肉とペットボトルのコーラという身動き不可能な中、かろうじて顔を出しては互いに笑い合った。
ブレンダの夫はカーマFMでDJとして働き、物静かで優しそう、なかなか素敵なオジサマだ。いつもカウボーイハットを被り、真黒いサングラスとブーツでキメている。まるで西部劇に出てくるヒーロー。
彼はこの日、息子達にクリスマスプレゼントのおもちゃを買ったが、そのうちアルバンに買った『18ウィーラーズ』という名のラジコンカーは99.95ドルもする高価なもの。コミュニティ生活の中で9才の少年に与えるには贅沢かと思われるほど。
「うわ、高い!」
思わず私は叫んだ。
「高くない、安いよ。甥っ子がこの手のラジコンカーを持ってるけど、それは
200ドルもするんだ。それに比べたらこれはずっと安い。」
三男のアルバンの場合でこうなのだから次男や長男には何を買ったのかと訊くと、
「ジェフリー(11才)には自転車、ドノバン(13才)にはコンピューターゲーム。」
と言う。毎日身に付けるシャツやズボンは擦り切れていても、白人家庭に食べ物をねだりに行っても、クリスマスには日本の子供達と負けないかそれ以上のおもちゃを手にする。彼らの経済観念は非常に複雑だ。
揺れるダンボール箱越しに、彼は小さな声で言った。
「でもね、ブレンダにプレゼント買うの忘れちゃった。」
「えっ!駄目だよ、それ。奥さんの分忘れちゃ。」
「うん。明日また買いに来るよ。」
ブレンダヘの贈り物が何か知りたかったが、この日まだ彼は買うものを決めていなかった。
「今夜じゅうに決めなくちゃな。」
彼がブレンダに送る視線はいつも優しい。隣り合わせた仕事場へ二人揃って出勤し、二人一緒に家に帰ってゆく。
元気で悪戯好きな息子達とは逆に、物静かで照れ屋な両親。さらに二人ともとても良い英語を話す事が分ってきた。当初は恥ずかしがり屋の彼ら、特にブレンダはまるで話をしてくれなかったが、彼女はいつも私の英語を理解していたのだ。
ともあれ、クリスマスはもうすぐ。そして私がこの地を去る日も目前に迫っていた。
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