REPORT FROM THE DESERT

〜アボリジニ居住区での日々〜


瀬川 叔子

第3章 アボリジナル・オリンピック (ユンドゥム)



アリス・スプリングスから北西へ300H走ると、変化の無い渇いた景色の先に簡素な家々が見えてくる。真っ赤な大地に真っ青な空、その鮮やかな色に似付かわしくない冷たい風が吹いている。8月の中央砂漠、季節は真冬なのだ。デイヴの家族と私、そして二匹の犬を乗せた緑のTOYOTA(4WD車全般を指す俗語、ちなみにこれは日産車)は、砂煙をまき上げて目的地ユンドゥムに到着した。
およそ1000人が暮らす、アボリジニ居住区の中でも比較的大きなコミュニティ、それがここ「ユンドゥム」である。

 毎年、こうした大きなコミュニティでは大運動会が開催され、周辺の居住区からわんさかと人が集まり、各コミュニティ対抗で各種競技を行う。 
ユンドゥムは私の(スキンネーム上の)伯母、ベスが生まれ育った土地だ。人々はワルピリ語を話し、現在でもイニシエーション(成人になる為の儀式)など多くの伝統文化を守り続けている。
 ベスはこの運動会でバスケットボールの審判を務める。
私が応援するのは勿論「ユンドゥム」チーム、というのも、デイヴとベスの14歳になる愛娘、ジャシンタが出場するからだ。ユンドゥムチームは黄色地に黒ラインの入ったユニフォームまで新調して、格好よさでは既に群を抜いている。

 4日間に渡って行なわれる運動会は午後8時をまわった頃、強風にあおられながらの男子バスケットボール試合で幕を開けた。日が落ちてからの冷え込みは予想以上に厳しい。コートの周りを囲む応援団もみな毛布にくるまり、肩を寄せ合い、なんとか暖をとる。私は厚手のミリタリージャケットのフードを被り、ファスナーをしっかり締めたが、とてもじっとしてはいられない、とにかく寒い。どうしてこんな時期に運動会をやるのかが不思議だ。

  大会2日目、会場の4カ所で順々に競技が行なわれてゆく。女子ソフトボールとバスケットボール、男子フットボール、そしてひときわ盛り上がっているのが槍投げ競技である。
槍投げと言っても飛距離を競うのではなく、目標物を置き、いかに正確にそれに命中するかを問う、狩猟文化を伝統とするの彼らならではの種目だ。的にはウレタンで作ったカンガルーを用いる。決勝戦頃にはもう、穴だらけになってしまって、結構哀れなのだが。
さらに、一般的な槍投げと異なるのはその投げ方。槍を直接手で握って放り投げるのではなく、「ウーメラ」と呼ばれる道具を槍の末端に引っ掛けて振りきる。この「ウーメラ」が、槍を遠くまで飛ばすための秘密兵器なのだ。
 ウーメラは選手が各自手作り、それを巧く使いこなす技術も必要なのだから、実はこの競技、かなり奥が深い。
沸き立つ観客を見回して思ったのは、その殆どが白人の取材陣やほか居住区関係者達だったこと。当のアボリジニの人々、特に若者達には槍投げよりもフットボールの方がよっぽど魅力的なようだ。

  夜になると、大会のもう一つの楽しみ「野外コンサート」が催される。ダンスチームをはじめ、親子でカントリーミュージックを演奏するグループ等々が赤、黄、黒の3色で彩られた民族旗を描いたステージに次々と上がる。この辺りで人気の高いセミプロのロックバンドの演奏が始まると、まさに会場は興奮の頂点へ。出演者はもちろん皆アボリジニの人達。どうやら、エレキギターを多用したシンプルなロックが最近のアボリジニ音楽の流行りらしい。

 会場には様々な言語が飛び交い、お祭り気分が溢れている。よく見ると同じ色、デザインの上着を着た女性が3〜5人のグループを組んであちこちに見られる。訊けば彼女達はパトロール係員なのだそうだ。 居住区内はアルコール類厳禁だが、このお祭りに便乗して飲酒、及び酒類を持ち込む人が多ければ、他コミュニティから大勢の人が集まる事から、問題が起こる危険性も高い。彼女達は会場や駐車中の車を巡回して防犯に努めている。
 デイヴは私にワルピリ語をひとつ覚えさせた。それは「ロウア、パンマ、ワンゴ(酒類、持ってません)。」何よりまずこの言葉を知っていた方がいい、と彼は言う。パトロール係員達に訊ねられて答えられないと、怪しまれてしまうから。

  大会も3日目を迎え、お待ちかねのバスケットボール、ユンドゥムチームは期待どおり順調にコマを進めていた。しかしその進行状況は恐ろしくゆっくりで、3日目の午後になってもまだ多くの試合が残ったまま。ジャシンタは学校があるので町へ戻るが、審判役のベスはまだ帰れない。かといって、ベスはそれに動揺することなく明るく笑い飛ばしている。
「ほらね、アボリジニの女性って全然時間とか気にしないんだから。」
と飽きれて言うデイヴの目は限りなく優しく、ベスへの愛情に満ちている。おおらかな才女ベスと現代っ子のジャシンタを温かく、また厳しく見守るデイヴとこの家族を通して私は、自分がますます彼らを好きになってゆくのを感じていた。
  そして彼らとその故郷ユンドゥムの人々、さらには全アボリジニの人々とスキンネームを通して家族になれたことを、心から嬉しく思った。

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