コミュニティの中心に位置するショップ。近くにある螺旋状の滑り台では、休み時間の小学生達が遊んでいる。買物を楽しむ女性達、木陰ではジュースを片手に語らう人々。コミュニティじゅうで最も賑わい、人々が集うこの時間、明るい笑い声と歓声がそこかしこから聞えてくる。
新参者の私の姿が視界に入ると、どの顔も皆一瞬驚いたように動きを止め、その直後に少しだけ口元に笑みを浮かべる。
ミセス・ウォルシュと一緒に歩いているおかげで、不信感を抱かせずに済んでいるようだ。不思議とその視線に嫌な感じはしない。
店というよりガレージに近い建物内はワゴン車が3台入るくらいの広さで、生活必需品はおおよそ揃っている。
やたらと在庫が多いのが安価で庶民的な紅茶「BUSHELL」 、一斤単位で売られる食パン、煮豆の缶詰、グラニュー糖、粉ミルク、インスタントラーメン。
衣料品、玩具他の雑貨は鍵付きの(まるで檻の様な)囲いの中にあり、店員に申し出て開けて貰う。 冷凍食品のケースには鶏、ラム、牛肉が大きな塊で並ぶ。カンガルー肉は長さ90センチにもなる尻尾(皮付き)まで売られているが、ここで買うよりも自ら銃でしとめるという身近で合理的な手段をとる人は未だに多い。
町から運送車が来るのは多くても週2回、その為ここで売られる食品は長期保存の効くものでなければならない。
牛乳は60日保存可能な加工品。野菜に関しては、生野菜の幾つかは既にいたんでいたり、パック詰めのカット野菜にしろ賞味期限が切れていたりする。
建物の一部はファーストフードを売る窓口になっていて、開店時間の午前9時から11時の間ハンバーガー、サンドウィッチ、ジュース等を販売する。
全体的にスナック菓子をはじめとする油分が多く栄養価の低い食品、糖分の高い炭酸飲料などが人気が高く供給も充実している。特にコカ・コーラは幼い子供から年配者にまで人気があり、まだろくに口の利けない幼児に飲ませる母親がいるのには、驚いてしまう。
こうしたショップで新鮮な野菜や、果物、牛乳が手に入らないという現状は様々な問題を引き起こしている。
このサンタテレザに限らずアボリジニの人々が抱える食生活の悪化は深刻であり、現在腎臓に障害を持つ全てのオーストラリア人のうち10人中9人がアボリジニ、残る1人だけが白人という統計が出ている。 原因に挙げられるのは、アルコールの摂取過多。次に糖分、塩分の取り過ぎ。
アボリジニの人々は概して紅茶を多く飲むが、その紅茶には必ずスプーンに山盛り2杯のグラニュー糖と粉ミルクをたっぷり入れる。それを1日に数杯、その上コーラやファンタといった炭酸飲料も大好きで水を飲むように飲む。はっきりと濃い、甘い、塩辛い味を好み、焼いた肉やフライドポテトには「これでもか」という程ケチャップをかけて食べる。
白人入植以前、この地域のアボリジニの人々は食物の全てを自然から、ブッシュから得ていた。
彼らが昔から食べていたブッシュ・タッカー(自然から得る食物)は肉類にカンガルー、エミュ、ブッシュ・ターキー、ゴアナ。植物の種子を挽いた粉でつくるダンパーと呼ばれるパンケーキ。
そしてブッシュトマト、ブッシュバナナを始めとする野菜を沢山取るという、理想的な食生活だった。
現在彼らの主食となっているのは、いわゆるジャンクフードだ。白人がもたらした食文化の問題点ばかりを抱え込み、彼らは自分達本来の正しい選択から離れた。目先の便利さと嗜好に魅かれて文化の喪失だけでなく、彼ら自身の健康のバランスさえ狂わせている。
私はりんごジュース(2リットル)を買おうと、レジで値段を聞き驚いた。町の値段の約2倍、5ドルだという。私を異邦人と見て故意に高値を言ったのでは、と思ったがどうもそうでは無いらしい。
「居住区では何でも高いの。この辺りのアボリジニ居住区ではこの位の値段がふつうよ。」
と、ここで働く白人女性は言う。4割から物によっては倍、高いのも配送面を考えれば仕方ないが、けして裕福とは言えないこの地域の人々にとって状況は厳しい。
翌朝、10時の休憩に再び彼女と出かけるとショップ前に建つ銀行に人々の長い列があった。訊けば、 「今日はマネー・デー(政府の社会保障機関から失業者に対して生活費が支払われる日)。」
だという。
小さなコモンウェルス銀行は順番待ちの女性達でいっぱいだが、ミセス・ウォルシュがそれに加わっている間に、私の周りは休み時間の子供達でいっぱいになってしまった。
自分の名前を繰り返し名乗る子、その場にいる子供達全員を紹介する子、とにかく日本語を聞きたがる子、勿論日本と中国の区別の付かない子、背後から近づいて来て私と背比べをする子、四方八方からの質問と笑い声でたちまち大忙し。
「日本人なら中国語、しゃべれるでしょ?」
「ブルース・リーの友達?」
「カラテやってみせて。」
彼らの名前はその殆どが英語名だが、この地方で話されるアランダ語訛りが強い。 外国人の私には英語で話しかけるが、言葉の中にアランダ語が混じって時々理解に苦しむ。
子供達は日本人について知識も先入観もないのか、私に対してとても友好的だ。大人達の様に内向的ではない。
子供達の屈託の無い明るさに出会うと、不健康さのかけらも感じない。しかし彼らの多くは実年齢よりもずっと小柄で幼く見える。これにはやはり食生活に原因があると言われている。
住民達の笑顔が集まるこの場所で、私は現在を生きる彼らの豊かさと難題を同時に見ている気がした。
(つづく)
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