町で借りてきたビデオを皆で一緒に見ようという、ビデオ上映会をリーサルが企画した。今迄にもミセス・ウォルシュがリーサルの部屋を訪ねてビデオを一緒に見る事は何度かあったが、アートセンターの作家達みんなを集めて、というのは今回が初めてである。
会場となるのは小学校教師の白人女性キャリーの家。キャリーが仕事で町へ出ている今夜、彼女の子供達の子守も兼ねてこの家を使う。この広い家なら、作家達が全員来ても納まりきれるという訳だ。
午後7時半の集合と決めて、リーサルと私そして二人の子供達もトヨタに乗り皆を迎えに回る。夜道のドライブに興奮して騒ぎ続ける子供達に私は少し頭痛。車は東側地区へ、コミニュティ中心から最も離れたミセス・ウォルシュをまず助手席に乗せた。参加者の家を次々に回り声をかけるが、結局誰一人車に乗ろうとしない。
今日の午後アートセンターで話した時には、全員参加を言っておきながら、今になってやめると言う。
彼女達の返事の仕方はいつも何処か曖昧で、どちらかというと『参加しないとは言ってない。』に近い、大体にはっきりと自分の意思を言わない。相手がリーサルのように白人だったりすると余計に。
気を取り直して3人で上映会を始める。映画はミセス・ウォルシュの好きなジェリールイス主演、白黒のコメディ作品。彼女は久々に家事や家族の世話から離れ、ホッと安らいだ様子。手作りポップコーンをつまみながらビデオを観る。
キャリーの家は家族で生活するのに充分広い4LDK、7才と5才の子供達それぞれが幼いながらも個室を持っている。教師をしている白人家庭に政府が与える賃貸住宅だ。私と同様初めてこの家を訪れたミセス・ウォルシュが言った。
「ほらね。白人達はこんなにいい家に住めるのよ。」
白人ばかりが立派な家に住めて、より需要の高いアボリジニの人々の為の住居は足りていない。
政府が与えたミセス・ウォルシュの家には10人(日によってはそれ以上)が一緒に暮らしている。6畳程の部屋1つと、4畳半程の部屋2つ。4人の子供達は台所の床で寝ている。カーペットや家具は無く壁はむき出しのコンクリート。家の中で暮す感覚がそう強くないアボリジニの人々とはいえ、現代ではやはり家は必要、また悪天候の夜に外で眠る訳にはいかない。
政府から与えられる家は抽選で決まる。現在ミセス・ウォルシュは2軒目を希望して名前を登録、2年間待ち続けている。
困難を強いられている彼女に『オフィスに改善を申し出ては』と提案したが、
「白人だったら即受け入れられるけど、私達だとそうはいかない。」
のだそうだ。
アボリジニの人で白人と同等の住居に住んでいるのは現在ここには一人もいない。 警官フィリップは数度に渡りオフィスに申請したが受諾されず、重要なポストにいる教師アンナでもアボリジナルハウス(アボリジニの人向けの簡素な住居)に暮らしている。アンナ以外の学校教師達はみなキャリーと同じような、又はそれに近い設備の揃ったフラットを与えられているというのに。
こうした白豪主義の名残りは未だ確実に残っている。
オフィスのロドニーが言う。
「一般にアボリジニの人々に家屋を保持する習慣はない。掃除、修復を施して家を維持してゆく考えはあまりない。仮にもし彼らが白人のそれと同じような家を得て、同じ年月住んだとしても、白人の場合に比べずっと短期間の内に家は傷んで駄目になってしまう。ひどく汚れるだけでなくドアや窓は失われる。」
他のコミュニティで政府が与えた家屋は直にドアが外され、燃やされてしまったという。人々が木製のドアに求めたものは、薪としての利用価値だけだったからだ。
「実際、住居の待遇を良くしないと、こんな僻地にまで赴任してくれる人はいないからね。」
そう云われると・・・必然となってしまうのか。
ミセス・ウォルシュを送って、夜のコミュニティをトヨタで走ったのはなかなか快適だった。遠く北の方角には稲妻が近づいていた。反対側では雲の間から大きな月が輝いて、その鮮明な青白さが妙に艶めかしい。コミュニティにぼんやり点るオレンジの街灯。
家の外でテレビを見ている人達。庭先の地面の上に直接テレビを置き、その前に椅子を並べて腰掛け、家族皆でテレビを観ている。真っ暗な空間にテレビの蒼い映像だけが煌々と照っている。
彼らにとってのリビングルームは家の外にあった。稲妻と、満月と満天の星、その下でテレビを観る。何だかとても幻想的な光景だ。土の上に置かれたテレビまでが、彼らの手にかかって生まれた自然物の様にさえ見えて来る。
今回のビデオ上映会にはミセス・ウォルシュ一人しか来なかった訳だが、その理由の一つは会場が白人の家だったこと。
彼女達は怏々にして白人の家を訪ねるのを拒む。自分達がそれに比べて汚く、小さい家に住んでいる事を恥ずかしく思うのだという。
翌日のアートセンターでミセス・ウォルシュが皆に言った。
「もう、皆来ないんだから!」
リーサルの部屋にも、ミセス・ウォルシュ以外のアボリジニの人は余り訪れた事が無いらしい。思いの外、白人と彼ら間の壁は厚そうだ。たとえそれが彼らを強く支持するリーサルであっても。(つづく)
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