今回はとても当たり前のはなしです。つまり、アボリジニは現代人なんだっていう、ただそれだけのこと。
アボリジニは、太古の昔からオーストラリア大陸に暮らしています。だからといって、今を生きているアボリジニが、太古の昔のアボリジニなわけがない。まぁそんなことは当たり前なんだけど、アボリジニを「原始人」かなにかだと勘違いしている人って意外といるんですよね。タイムマシンでもない限り、原始人なんかに会えはしません。だから僕らがオーストラリアで出会うアボリジニは、僕らとともに21世紀を共有する現代人なんです。
例えば、こう言う人がいます――「アボリジニは内陸の砂漠地帯にしか住んでいないし、そんな彼らもすっかり西洋化して、本当のアボリジニはもういない。」――これは、二重に間違いです。まず、内陸地帯にしかアボリジニが住んでいない、というところが間違い。さらに、西洋化したアボリジニは「本当のアボリジニ」ではない、というところが大間違い。
ちょっと面倒だけど、この点をもう少し説明させてください。
西洋人がオーストラリア大陸を植民地化する以前、アボリジニは、オーストラリア全土に広がって狩猟採集生活をしていました。今ではシドニーやブリスベンなんかの大都市がある、気候が温暖な南部の海岸地帯は、内陸部よりも多くのアボリジニが暮らしていたようです。1788年に始まるオーストラリアの植民地化以降、入植者による虐殺や、彼らが持ち込んだ病気の蔓延などによって、アボリジニは、一旦人口を急速に減らしていきます。それでも生き残ったアボリジニは、伝統文化を徐々に失い、白人との混血がすすみますが、それでも自分たちはアボリジニであるという意識を(例えば白人によって差別されるという経験によって)持ちつづけるのです。だから、意外と知られていませんが、現在でもアボリジニの多くは、シドニーやメルボルンといった大都市やその周辺に暮らしています。その一方、オーストラリの内陸や北部は、植民地化による人口の集中が南部ほどには進まなかったので、この地域のアボリジニは、比較的伝統文化が残った暮らしを今も続けています。混血も、都市部に比べるとあまり多くはありません。もちろん、そんな彼らも、今は狩の時には4WDやライフルを使うし、そもそも狩猟採集にたよって暮らしているわけではないですけども。
数年前に、マルロ・モーガンというアメリカ人が書いた『ミュータント・メッセージ』という本が、評判になりました。近代西洋文明と無縁のアボリジニに出会って、一緒にオーストラリアを旅した経験談として書かれたこの本は、世界的にベストセラーになり、日本語にも翻訳されています。でもこの本が、その後むちゃくちゃに批判されたってことは、あまり知られていません。これは、その内容が事実にもとづかない、作者のでっちあげだったというだけの理由ではありません(ちなみにアボリジニ本人たちから攻撃された作者は、ついにこの本がでっち上げだったことを認めました)。問題だったのは、しかしそれだけではなく、マルロ・モーガンが、西洋文明に触れていないアボリジニが「本当のアボリジニ」である、というイメージを助長したことにもあるんです。これを読んだ、都市に暮らす現代人アボリジニが、腹を立てたのも当然でしょう。あたかも、自分たちが「ニセモノのアボリジニ」であるかのような印象を読者に与えるんですから。これじゃあ、サムライや忍者でない、スーツを着て会社で働く現代の日本人は「本物の日本人じゃない」と、いっていることと同じでしょう?
「自分たちは、時代とともに変化(進歩?)していくが、アボリジニは、昔のままでいなければならない」なんていう、僕らの自分勝手な「理想のアボリジニ」の押し売りが、多くの現代人アボリジニにとって、どれだけ迷惑かわかったもんじゃない。というわけで、都市や町に暮らすアボリジニに関心のある方は、ぜひ鈴木清史著『都市のアボリジニ』(明石書店)、あるいは上橋菜穂子著『隣のアボリジニ』(筑摩書房)を読んでみてください。
で、ここまで書いておいてなんですが、ここでもうひとつの間違ったイメージを生んでしまうことを僕は心配してしまう。つまり、都市に住むアボリジニが「現代のアボリジニ」で、内陸に暮らすアボリジニは「滅びゆく昔のアボリジニ」だという誤解。――大陸の内陸部や北部に暮らす多くのアボリジニは、僕がつきあいをはじめた1990年代後半でも、今この瞬間でも、ドリーミングと呼ばれる、アボリジニ独自の思想を大切にして生きています。だから、ドリーミングにもとづいて大地と交流し、世界を維持するための儀式をおこなうアボリジニもまた、21世紀を生きる「現代人アボリジニ」なんだということも、やっぱり強調しておきたい。
大学に通うアボリジニ、失業とアルコール中毒に苦しむアボリジニ、先住民の権利回復運動に熱心なアボリジニ、4WDでカンガルーを追いかけるアボリジニ、そして、儀式が始まると夜明けまで歌い踊りつづけるアボリジニ――これらはすべて、オーストラリア各地で、今現在を生きているアボリジニであり、これが現代人アボリジニの多様性なんです。